Amygdala

Turns on

ティクターリクが可愛いという話をしたい

日本のポピュラー歌手aikoの歌に「ア~ テトラポット登って~」という一節がある。

ググってみたところ2000年に発表された「ボーイフレンド」という曲で、50万枚を売り上げる大ヒットとなったようだ。良い曲ですよね。ここでいう「テトラポッ」がさしているのは海岸に並ぶ消波ブロックのことであるが、正確には「テトラポッ」(Tetrapod)であり、しかもその名称は国内において不動テトラという企業によって登録商標となっているとのこと。また、「テトラポッド 事故」でググると夏らしいホラー感も味わえるので読者の皆様には一度試されたい。

 

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さて、今回の話題はどちらとも関係ないTetrapods、すなわち四肢動物の総称である。その中でもデボン紀に登場した最初期の四肢動物、魚と両生類を繋ぐ存在たちについて興味深い知見が示されているのでここに紹介したい。

デボン紀は約4億1600万年前から約3億5920万年前までの時期とされているが、正直数字で示されても我々にはピンとくるものではない。シルル紀の後、石炭紀の前と言われたところで同じである。当時は魚の時代と呼ばれるように様々な板皮類(巨大なダンクルオステウスなどが有名)や軟骨魚類(サメ等は板皮類から進化したといわれている)、棘魚類(硬骨魚類の親系統)、硬骨魚類(現生魚類のほとんどを含む)などが海水、淡水問わず繁栄していた。

なかでも硬骨魚類の一派として様々なニッチに適応放散していたのが肉鰭類というグループであり、現在ではシーラカンスやハイギョ数種を残すのみで衰退しているが、白亜紀の終わりまではかなりの多様性があった。このグループを含む当時の硬骨魚類や棘魚類は肺と鰓を併用して酸素を取り入れており、硬骨魚類では遊泳効率のために肺を浮き袋へと変化させた。

広義の両生類を含む現生の四肢動物(爬虫類、哺乳類、鳥類)の全ては、この肉鰭類のいずれかの種を祖先に持つと考えられている。

 

またその当時はやっと地上に最古の森林が生まれ湿地帯が形成された時期でもあり、後に大きな繁栄を築く昆虫ですらミジンコたちとの共通祖先から分化、陸棲化したばかりの原始的な存在で、羽をもつ種の登場は石炭紀まで待たねばならなかった。陸上には大きな生態的空白が存在していたのである。そして、当時は水中の酸素濃度が少なく、空気中の酸素濃度は高かったことが堆積物の放射性同位体によって示唆されている。

そして深海を除いて水中のニッチはかなり飽和状態にあった。そういった状況下で遊泳のための鰭をかき分けるための手足へと進化させたのがelpistostegid(エルピストステジッド/エルピストステゲ)と呼ばれる肉鰭類の中の一派だった。鰭から手足への変化を促した環境については諸説あるが、季節的に浸水する森林、干満の差が激しい汽水域、極地に近い森林の中の池、海辺の浅瀬などと推察されており、ポーランド採石場で発見された最も古い四肢動物の痕跡とされる3億9000万年前の足跡は海岸の干潟に残されていたものが化石化したらしい。

natgeo.nikkeibp.co.jp

 

問題はその大きさである、一足が幅26センチに及ぶこの足跡の持ち主はなんと体長2.4メートルと試算されている。手足の獲得を促した環境が何であれ、エルピストステゲ類は大型の捕食動物であり、初期四肢動物の登場は大型の魚類が捕食の幅を広げるために能動的に手足の獲得へ向かった結果だと推察されるのだ。

 

ameblo.jp

 

しかし、3億9000万年前の足跡を残した生物がどんな姿だったかを知ることができる化石は発見されておらず、現状では2000万年ほど新しい地層からしかエルピストステゲ類の化石は発見されていない。「足を持った魚」がいつ頃登場したのかは今もなお大きな謎である。

 

日本語でエルピストステゲ類について記した記事は多くないが、こんなサイトがあった。当記事が必要ないのではないかと思うような充実の内容であり、ローマーの空白(Romer's Gap)について日本語で触れている数少ないサイトである。また、水棲の脊椎動物が陸棲化するために必要な身体的変化についても詳しく触れられている。

panmsato-1.jimdo.com

 

また、Devonian Timesというサイトでは18種類にわたるデボン紀の初期四肢類の解説がなされており、ありがたいことに発見された化石の部位をマーカーで示してくれている。少し画像をお借りして見てみよう。

 

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例えば有名なアカントステガ・グンナリ(Acanthostega gunneri : 種小名がぐったり+げんなりっぽくてダウナーっぽいのが良い)ではほぼ全身の骨格が知られているが、

 

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Livoniana multidentataという種や(名前が読めない)

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Metaxygnathus denticulatusや(こいつも読めない)

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Densignathus roweiや(発見された部位が近いので前者と画像が一緒である)

 

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オブルチェヴィクティス(Obruchevichthys gracilis : 読みづらい)などの種類はなんでどいつもこいつも下顎骨の断片しか見つかってないんだ。

こんな断片的な化石で学者はよくエルピストステゲ認定ができるものだと感心するが、重要なのは魚類から四肢動物への進化には何千万年もの時間がかかっており、その過程で膨大な側系統が誕生し、異なる進化のグレードを示す種類が熱帯から極地まで様々な環境で同時期に存在していたということである。

 

そんなエルピストステゲ類で私のお気に入りがいるので紹介したい。

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それこそが表題のティクターリク(Tiktaalik Roseae)である。3億7500万年前に生息していたというこの魚は、魚のくせに頭と胴体の間にくびれ、つまり首があり、腕のように伸びた鰭の中には手首のような関節もあった。眼もなんだかワニのようにやたら上についており、腕立て伏せのような格好で水の上に上がることができたらしい。鰓呼吸と肺呼吸を併用し現生のムツゴロウ(麻雀狂いの老人ではなくMudskipperの方)のように泥の上を這いまわることができただろうと考えられている。

しかも体長は2.7メートルと意外とデカい。この何とも言えないアンバランスで「まさに進化途上!」なデザインが愛らしいではないか。

骨格も上半身に関しては比較的良好な保存状態で発見されており、重要な研究対象となっている。Tiktaalikとは化石が発見されたカナダに住むイヌイットの言葉で「カワメンタイ」を意味するらしいが、カワメンタイとはシベリアや北アメリカに生息するタラ科唯一の淡水魚とのこと。初めて知りました。

 

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アッテンボローの番組にも壮大なBGMと共に登場、当時の植生にもこだわった映像がBBCらしい。

 

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ティクターリク人形を上陸させているファンもいる、微笑ましい。

 

 本当はデボン紀末の大量絶滅を経てローマ―の空白から石炭紀初期の水棲四肢動物まで触れたかったのだが、力尽きてただ単に偏愛的な記事になった。おわり。