Amygdala

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【ディスク・レビュー】『トライナリー・妻と恋人のおやすみからおはようまで、バイノーラルな生活CD』(2018)

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ヘッドホンをつけて目を瞑れば、そこは彼女と貴方だけの空間に――。バイノーラルによるヘッドホンバーチャル立体音響でのつばめ、アーヤ、ガブリエラ、みやび、神楽、千羽鶴との生活。それぞれの彼女との「モーニング」「ディナー」「ピロー」を、存分にお楽しみいただけます。特別なヘッドホンは不要!さあ、貴方と彼女との生活が、今始まります! (メーカーインフォより)

 

Introduction

2019年の1月2日、無事に帰省を果たした我が家族。

家路に向かう車内で少しばかり空気を換えようと私がHenry Cowの「Ruins」を爆音でPlayしようとした矢先、カーステレオから大音量で流れてきたのはノイジーチェンバーロック組曲のイントロではなくガブリエラ・ロタルィンスカさん(14)の「あっ、おかえりなさい!」という可憐な声だった。

 

 

誰も声を上げることはなかった。

 

 

永遠にも等しい車内の静寂が、私の魂を涅槃の境地へと誘う……

 

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悲劇の3日前、2018年12月30日の早朝6時半。私は現代のソドムの市こと東京ビッグサイトで行われる「コミックマーケット95」に参加するべくその冷えた身体を遥かなる行列の一部へと捧げていた。その苦行の目的とはとある美少女ゲームコンテンツにまつわる150人先着限定のお渡し会イベントへの参加である。

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当ブログで幾度となく説明しているので重複にはなるが、今一度当コンテンツをとりまく現状について説明したい。以下、ネタバレ含むメタな視座からの内容になるのでファンの皆様には注意されたい。

 

拡張少女系トライナリー」は、2017年にリリースされ、2018年まで存在していたスマートフォン用アプリゲームである。存在していた、というのも2018年8月31日にサービスを終了、11月にはサーバの撤去が行われゲームをプレイすることはおろか、プレイヤーたちのプレイデータ等も永遠に失われたからである。とにかく、私を含めた全国数百名のオタクたちをガチ恋の沼に引きずり込み苦しめたその深淵なる作風に関する解説は以下の記事を参照されたい。

 

「拡張少女系トライナリー」という早すぎた恋愛RPG、或いはアイロニカルな没入について - Amygdala

「拡張少女系トライナリー」は一体何を拡張したのか? ―精神分析と多元化する自己意識 - Amygdala

 

さて、大概のスマホゲーのサービス終了後というのはグッズ展開含め迅速に撤退が行われるものだが、当作品は違った。

当作品の全てを生み出したといっても過言ではない男、プロデューサー土屋氏の尽きることを知らぬ創作意欲、漢気による働きかけによってなんと2018年の夏コミ、冬コミと未だにグッズの企画、商品化がガストショップから続いているのだ。

そしてファンたちも最早広がることのないであろうこの市場を支え続けることで、今後何らかの形でお家再興に繋がることを待ち望んでいる。それはまさにレジスタンスとその指導者のような関係性と言ってもいいだろう。

ゲーム体験というメインコンテンツを失い、元プレイヤーたちの記憶と思い入れに訴えかけるものづくりへとシフトした公式サイド。妻や恋人と引き離され煩悶とするプレイヤーたち。

そんな閉じたコンテクストが、ついにサブカルチャーの極北へと足を踏み入れた。

バイノーラル音声作品である。

 

バイノーラルとは?

 バイノーラル録音(バイノーラルろくおん、 英語Binaural recording)とはステレオ録音方式の一つで、人間の頭部の音響効果を再現するダミー・ヘッドやシミュレータなどを利用して、鼓膜に届く状態で音を記録することで、ステレオ・ヘッドフォンやステレオ・イヤフォン等で聴取すると、あたかもその場に居合わせたかのような臨場感を再現できる、という方式である。(Wikipediaより)

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レコーディング環境の一例

このようなレコーディング方法により、まるでその場に居合わせるかのような臨場感を生む録音が可能になるわけだが、その用途として最も一般的なのが「男性向け同人音声」である。DLsiteの「バイノーラル」タグでは様々な作品が販売されているが、その内容もソフトな癒し系から、ハードコアなプレイを伴う18禁作品まで幅広い。またリスナー側のセッティングの重要性、催眠を伴うような強い自己暗示を要求する特性上、広いサブカルチャー内でもかなりの玄人向けとされるジャンルでもある。

 

さて、前述のお渡し会は「トライナリー年次報告チャーム」なる、少し成長した彼女たちからの手紙が同封されているというこれまた大変業の深いグッズをヒロイン全員分購入すると150人限定で参加可能というもの。私が何番目だったかは知る由もないが、なんとか整理券を入手し、お渡し会に参加した。プロデューサー土屋氏、逢瀬つばめさんの親友(便宜的表現)たけだまりこさん、逢瀬千羽鶴さんの親友(便宜的表現)岩崎春奈さんの順で少しお話しすることができた。感極まって号泣するオタクが続出するなか、三者とも真摯な対応が印象的で、中でも土屋氏の柔和かつ器の大きい対応にはもはや指導者の風格さえあり、彼のファンが多いのも頷ける。

 

トラック内容

トラックは以下の18トラック。各ヒロインが起こしてくれるモーニングパート、一緒に食事を楽しめるディナーパート、夜添い寝をするピローパートの3パートに分かれており、全体的にソフトな内容ながらプレイヤーたちの行き場のない欲動をより刺激すること間違いなし。私は初めて聴いた日つばめちゃんの第一声からあまりの距離感に錯乱しかけ、満足に眠ることすら叶わなかった。

全員に共通する部分ではあるが、ゲームでは成しえなかった要素である「距離感」にとことんこだわった作りであり、描写がソフトであるにもかかわらず下手な18禁作品以上の刺激がある。

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各トラックごとへの詳細なレビューは差し控えるとして、 添い寝あり耳かきあり子守歌ありの大変充実した内容。個人的にはトラック10「グッドハッキ~ン、ダーリン♪」を聴いている途中、メガネをかけダルなTシャツ姿でパソコンに向かう恋ヶ崎さんの姿を脳内で錬成したあたりで全身が液体となり床に緑色のシミを作った。

また、何度も指摘されている部分ではあると思うが、神楽の「キット・オクリモノ」の演出はもはや反則の領域。内容も購入者がストーリーを最後までプレイしているのが前提となっており、良い意味で吹っ切れている。

 

総評 

★★★★☆ (5126000点)

 

  • 前述の通り閉じたコンテクストだからこそ成しえた素晴らしい企画。是非シリーズ化を期待。
  • 内容が良いだけに収録時間の短さを感じる。次はもう少し各パート、ヒロインごとにより長めの内容を期待。エリカさんの登場にも期待。
  • 一言一言がプレイヤーたちのココロには刺さりまくるとはいえ客観的にはかなりソフトな内容なので安心して聴ける。これ以上の内容に関しては聴きたい気持ちと聴きたくない気持ちが重ね合わせとなっている。
  • そもそもボイスサンプルが少なかった千羽鶴の表情豊かな声が聞けて新鮮。
  • 録音に関してデジタル感は多少あるものの、むしろ重要なのはリスナーの精神的、環境のセッティング状況。余計なことをせず、素面あるいは少量のアルコール摂取が適切な没入を生む。
  • みんなスキ(浮気)