Amygdala

Turns on

ニンニクとスティルトンチーズで夢を見ようとした

ツアーから帰国すると、いつものように近所のスーパーで日清キャノーラ油を積む生活が始まった。店内の蛍光灯はあまりにもまぶしく、古くなった揚げ油の匂いとイチゴの媚びたような赤ばかりが目に焼き付く。とにかくここは明るすぎる。

そういうわけで、仕事を急に休んで海に行ったりを繰り返していたのでついには2年間務めたスーパーをクビになった。まだ海は寒かった。

 

労働をやめたことで精神が安定したのはいいが、今度は退屈がじわじわと尻のあたりを濡らし始めた。何かしなければ、という根拠のない義務感は無職の24歳の重い腰を動かすに十分である。

手始めにスポーツ観戦や恋愛にパチスロFGOの10連ガチャのような一般的な射幸性娯楽にコミットしてドーパミンの信者になることもたやすいが、それよりも久しぶりに面白い夢を見たくなった。それも「平民に100万円をバラ撒き月の裏側まで恋人のミイラを探しに行く」ような大それたものではなく、子供の頃インフルエンザにかかって見たような形而上的恐怖を伴うものでいい。*1

 

早速近所の店を回って用意した材料は以下の通り。

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DAISOの怪しい100円サプリです

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ロックフォールゴルゴンゾーラと並ぶ三大ブルーチーズのひとつ

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醤油に漬けたらやたらしょっぱくなった。

 

何も口を臭くしようと努力しているわけではない。ご存知の通りスティルトンチーズは以下のような逸話で有名なチーズだからだ。

2005年、英国チーズ委員会(British Cheese Board)は「就寝前に食べたチーズと夢の関係」についての調査報告を行った。この中でスティルトンチーズはほかのチーズよりも「奇妙な夢」を見る確率が高いとしている。就寝30分前にスティルトン・チーズの小片20gを食べた被験者200人のうち、男性の75%は「奇妙で鮮明な夢」を、女性の85%が「奇怪な夢」を見たという。      

 

そしてニンニクは100グラムあたりのビタミンB6の含有量が極めて高い食材として知られており、ビタミンB6を摂取すると「夢をはっきり記憶できる」ことがオーストラリアの研究でも示されている。*2

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https://foodslink.jp/syokuzaihyakka/Vitamin/eiyou/b6.htmより

 

そして最後のイチョウ葉サプリだが、摂取するとうつに効くだとかセロトニンが出るだとかという噂がまことしやかに伝えられている。エビデンスは全くないらしく、プラセボに近いような類のものだが、どっちにしろ100円なので試してみても損はないはずだ。それに、600円程度で面白い夢を安定供給できるならば現代社会の娯楽たちに一石を投じることができるかもしれない。

 

1日目

ニンニクの醤油漬けを含む夕食後、22時ごろスティルトンを20グラム、寝る前の24時ごろニンニクサプリを二錠飲んだ。無臭加工されているらしいが普通にニンニクの香りは強く、効果のほどが期待される。

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肌荒れは気にしないでいただきたい。

結論から言うと、翌朝夢を記憶していた。

内容はさほど奇妙なものでもなかったが、巨大なコンクリート造りの建築物の内部が極端に入り組んだブックオフハードオフのような施設になっており、壁一面に詰め込まれた本を開くとそれは自分の家族写真の貼られたアルバムであったり、幻想的な生物の生態が仔細に書き込まれていたりする、といった内容だった。

 

2日目

昼間にイチョウ葉サプリを2錠飲むが、無職になって以来脳内のセロトニンレベルは安定している気がするので特に変化を感じない。

20時ごろワインとビールを飲みながらピザを食べ、部屋で気が付くと眠りに落ちていた。22時ごろには目を覚ましたが、そこは見知らぬ体育館の準備室のような空間で、混乱しているうちに「もう一度目が覚めた」。今度こそ自分の部屋であり、つまり夢の中で夢を見ていた。

2時間程度のうたた寝にしてはなかなか奇妙な夢だったので期待できそうだ。中途半端な時間に寝たためなかなか眠れず、深夜27時頃、再び20グラムのスティルトンとニンニク錠を10錠用意し、バーボンで流し込む。

 

3日目

何も覚えていなかった。正確には、何か夢を見ていたことは感覚として把握しているのだが何も記憶されていない状態だった。

今回は条件を変え、あえて夕食前の18時ごろに30グラムのスティルトンを摂取、就寝前の26時ごろニンニクサプリを4錠飲んでみた。

……だがやはり翌朝になると何も覚えていなかった。今回に至っては夢を見ていたであろうという感覚さえ残っていなかった。

 

 

今回色々と条件を変え試してみたが、条件が緩かったこともあって「スティルトンチーズで夢は見れまぁす!」と言い切るほどの明確な結果を得ることはできなかった。何度かそれらしき夢を記憶することはできたが内容も凡庸で、奇妙と呼べるほどのものではなかった。

また、惰性で飲んでいたイチョウ葉もほとんどプラセボ的な効き目しか示さなかった。

 

なぜスティルトンチーズが夢を見せると言われているのかについては十分に研究されていないが、乳製品に豊富なトリプトファン代謝の過程でセロトニンメラトニンに合成され、腸内でインドールに合成されることと関係があるかもしれない。インドール環に対応するインドリル基はセロトニンメラトニン、そして麦角アルカロイド(及びLSD)、シロシビン等の幻覚剤にも含まれており、人間の無意識領域に強く作用する成分がスティルトンチーズを食べることで体内で合成されているのかもしれない。

とにかく今後の研究が期待される。(丸投げ)

 

*1:部屋のブラインドがグルグル回転しながら自分を巻き込んでいく幻覚は強烈だった、また見てみたい光景の一つである。

*2:とはいえ、彼らの摂取した量は240㎎という非常に高い数値であり、他のビタミンB群も摂取しない状態が望ましいとされている。ここではご覧の通り簡易的な手法を取り入れた。